2016年になって、パナソニック、日立造船、ソフトバンク、楽天、デンソー、テラモーターズといった有名企業がドローンを使った事業に参入することを表明しています。ドローンの機体そのものは急速にコモディティ化が進みつつあるため、オリジナルのアプリケーションや既存システムとの連携といったソフトウェアによる差別化が重要になりつつあります。
農業や物流、点検や測量といったあらゆる産業でドローンを利用したサービス実現の競争が始まることで、急速に拡大していくと見込まれるソフトウェア開発の需要ですが、この分野で注目を集めているのがオープンソース化を推進している「ドローンコード プロジェクト」です。Linux Foundationが2014年に発足させたこのプロジェクトでは、ドローンを制御するフライトコントローラーという装置を動かすためのソースコードや開発ツールの整備が進められています。
ドローンの心臓部であるフライトコントローラー
そもそもドローンに必ず搭載されているフライトコントローラー(FC)とは何者でしょうか。
フライトコントローラーは、内蔵するジャイロ、加速度、コンパス、気圧などの各種センサーから情報を得て、機体の姿勢を監視し、モーターの回転や進行方向を制御する装置のことで、オートパイロットと呼ばれたりもします。ここに、GPSなどのGNSS(グローバル衛星測位システム)を組み込むことで、自律的な飛行も可能になります。そして、これら一連の処理を行うのはマイコンと呼ばれる小型のコンピューターで、このマイコンがあることでドローンの操縦はとても簡単になりました。フライトコントローラーの存在がラジコンとドローンの一番大きな違いとも言えます。
また、日本の今の法律では飛行するドローンにSIMを搭載することはできませんが、仕組みとしてはインターネットのクラウド環境に直接通信することも可能で、いずれ規制が緩和されて「空飛ぶIoT(Internet of Things)」であったり、「スマートコプター」と呼ばれる製品が登場するかもしれません。
実際、ドローンにはスマートフォンで使われる部品が多く使われており、スマートフォンの爆発的な普及による部品の小型化と低価格化が、ドローン市場の拡大の大きなきっかけになったと言われています。例えば、レース用の自作ドローンに使われるシンプルなフライトコントローラーであれば、数千円程度で購入することができます。
フライトコントローラーは2つの陣営に色分けされつつある
ドローンの進化に伴って、これまで多種多様なフライトコントローラーが世の中に登場しましたが、少しづつ集約が進みつつある状況です。
最大の勢力は、ドローンの機体で圧倒的なシェアを占める中国のドローンメーカーDJIが製造するフライトコントローラーです。こちらは、ハードウェアからソフトウェアまで全てをDJIがコントロールするクローズドな垂直統合型の製品です。つい最近、A3という3年ぶりとなる最新製品が発表されました。
そして、もう一つの勢力が、オープンソース指向のフライトコントローラーです。アメリカ最大のドローンメーカー3D Roboticsやスイス連邦工科大学 チューリッヒ校 (ETH Zurich) のノウハウを母体としていて、APM、PX4、Pixhawk などの様々な製品があり、ドローンコードが利用されています。
最近は、マイコンよりも柔軟でよりオープンなLinuxOSを使う取り組みも進んでいて、Erle-brainや、RaspBerry Pi 上で動くNAVIO+というフライトコントローラーも登場しています。Parrot社のBebopシリーズや3D Robotics社のSoloにもLinuxが使われています。
また、CPUメーカーのIntelやQualcommもこのドローンコードプロジェクトに参画しています。2015年にはIntelが上海のドローンメーカーYuneecに出資を行い、IntelのRealSenceプロセッサーのDepth(深度、距離)センサーを使った機体が発表されました。
国産フライトコントローラーを開発する自律制御システム研究所
日本のドローンメーカーも、エンルートではPixhawkが利用されていたり、プロドローンはDJIとの提携を発表していたりと、フライトコントローラーはいずれかの陣営の製品を採用しているケースが多いです。そのような状況の中、自律制御システム研究所は国産のフライトコントローラー「MINISURVEYOR AutoPilot」を開発し、非GPS環境での自律飛行を武器に産業用ドローンの分野で日本の巻き返しを狙っています。
さらに、ドローンコードの中心的な企業である3DRoboticsのCEOクリス・アンダーソン氏と自律制御システム研究所のCEO野波氏は、3月に行われた新経済サミットのセッションで、今後の連携に向けた会話を始めていることを明らかにしており、DJI に対抗するオープンなエコシステムを日米で協力して拡大していく可能性もありそうです。
この「産業用ドローン時代の幕開け」のセッションの模様については、こちらの記事を参照ください。
ドローンコードをビジネスに活用する方法
ドローンコードによるドローン開発プラットフォーム「DroneKit」
ドローンコードに対応したドローンのアプリケーションを開発するためのSDKやAPIを提供するプラットフォームとして3D Roboticsから「DroneKit」が提供されています。
この開発キットを使うことで、経路設定や自立飛行、センシングしたデータの加工、飛行ログの解析といったカスタマイズが可能になり、オリジナルのソフトウェアを開発することが容易になります。
開発者は業務に必要となる独自機能に集中できるので、ドローンの産業利用を加速することが期待されています。
また、DJIも自社独自のSDKの提供を開始し、ドローンの産業利用のニーズに応えようという動きを強め始めており、開発キットや保守サポートといったソフトウェアの分野での競争も激しくなっていきそうです。
日本での教育プログラムが5月にスタート
このドローンコードの開発にかかわるエンジニアは全世界で見ても1,500名程度と数が少なく、これから始まる本格的な産業利用の足かせになることも懸念されています。そんな状況のなかで、世界に通用する優秀なドローンソフトウェア エンジニアを日本で育成することを目指した「ドローンソフトウェア エンジニア 養成塾」が始まります。
ドローンコード開発者のためのコミュニティの日本責任者であるランディ・マッケイ氏が塾長になり、ドローンソフトウェア開発のノウハウの習得や最先端技術の実装、および、自ら開発したドローンコードによる航行試験など、実践的なドローンソフトウェアの開発技術を学ぶ機会が提供されるようです。
これまでは、ドローンはハードウェア技術者が活躍する分野というイメージが強かったですが、ソフトウェアの開発環境が整ってきたことで、システムエンジニアやプログラマーが活躍するフィールドが広がっていくことは間違いなさそうです。