ドローンレーサーの必須知識!「FPVドローンを楽しむためのモラルと法知識」セミナー参加レポート(後編)

1月26日(日)15時~17時、「FPVドローンを楽しむためのモラルと法知識」セミナーが開催されました。
前編では、開催に至る経緯や、当日の飯原氏の開催主旨スピーチ、戸澤氏のドローンFPVの扱いに関する解説の模様をお伝えしました。
後編は戸澤氏によるレースドローン搭載VTXについての解説や、酒井氏による「法規制とモラル」についての解説の様子をレポートします。

戸澤氏:「ドローン屋の無理解からくる行動が、昔ながらのハム愛好家に迷惑をかけている」、法規制についての理解と遵守を呼びかけ

当セミナーは、「FPVドローンを楽しむためのモラルと法知識」とのタイトル通り、これからFPVドローンでレースを楽しもうと考えている人へ、ぜひ頭に入れておいていただきたい法規制や技術に関する基礎知識をちりばめたものでした。
前編では、2020年1月初旬に報道されたドローンのFPVに関するニュースという、非常にタイムリーな時事ネタを戸澤氏が取り上げ、「拡大解釈にもとづく『勇み足』だった可能性がある」と解説した様子をお伝えしましたが、結論は「ドローンFPVの扱いは当面従来通り」、つまりレーサー本人がアマチュア無線免許を取得し(当然、その主旨を理解していることが前提となります)、電波法や航空法といった関連法規制を遵守しながら機体運用を責任もって実施する必要があることには変わりがないだろう、というところでした。

「レーサー本人がアマチュア無線免許を取得し」と書きましたが、アマチュア無線免許を取得しただけではドローンレースへ出場することはできません。自分の扱う機体(正確には、自分の扱う機体に搭載するVTX※1)の「系統図」(電気回路の概略図)を指定の保証会社に提出し、性能保証を受ける必要があります。この手続きは「無線局開局」申請などと呼ばれています。
戸澤氏によれば、これには「5.6GHz帯向けに設計された国産のVTXに系統図を添えて申請」「5.8GHzISM帯(※3)向けに設計された輸入VTXを改造し、系統図を添えて申請」の大きく2つのパターンがあるとのこと。この「改造」とは、日本でアマチュア無線に使用が認められている帯域以外の電波を発信しないようにする措置をさします。
昨今は廉価な輸入物のVTXが好まれている傾向にも配慮し、戸澤氏は実際のVTX系統図を示しながら作成の要点を解説。改造した場合はその箇所やポイントを明記すべきこと等を挙げました。

ところで、5.6~5.8GHz帯のFPVを利用する民生用(※2)ドローンには、現在大きく次の2種類があります。
 1. FPVホビードローン
 2. 産業用FPVドローン
上記の1.は、前述の通り【非業務目的】に限定されており、運用するためにはアマチュア無線免許が必要です。一方2.の方は【業務目的】であって、陸上特殊無線技士免許が必要となります。
陸上特殊無線技士免許(しばしば「陸特」とも呼ばれます)は3級から1級まであり、近年ドローンを業務で利用する場面が増えたことに伴い有用性が認められてきた資格ですが、戸澤氏はこの陸特は「個人の趣味目的で使えるものではない」ことを強調。他方のアマチュア無線免許についても「業務には使えない」「たとえ報酬の発生しないボランティアであっても、業務目的では利用できない」と、両者を混同しないよう繰り返し注意を呼びかけました。

少し脱線しますが、筆者はアマチュア無線4級免許と第三級陸上特殊無線技士免許の両方を保有しています。ただ、両者を比較しても、市販のテキストの内容や試験で出る問題に似通った点が多いのは確かだと感じます。
また、筆者の周囲のドローン仲間を見た限りの感想ではありますが、アマチュア無線4級は、明らかに「ドローンレースをやりたい人・興味のある人が受験する」傾向がある一方で、第三級陸上特殊無線技士は「ドローン関連の法規制や電波のしくみの基礎をひろく押さえておくために受験する」人が多い印象があり、両者の差がきちんと認知されていない可能性はあるのかもしれない、と感じています。

上記の「業務目的・非業務目的」の話は、さきのVTXにも関連してきます。
戸澤氏は、業務目的での5GHz帯FPVドローン操縦の際には必ず業務用VTXを利用すること、レースドローン用のVTXは業務目的には利用できないことを述べました。
また、世界最大手ドローンメーカー・DJIが2019年下期に発売した「DJI Digital FPV System」についても言及、これは「『無人移動体画像伝送システム』のスペックで販売されているので、個人が趣味で使うことはできない」と指摘。つまり、日本国内では「業務用の技適品」の扱いであり、アマチュア無線では免許されません。
同時に、海外で人気の小型レースドローン「Beta95X」(DJIのOEM製品)についても触れつつ、こちらは「DJIのFPVシステムと組み合わせることは可能だが、『無人移動体画像伝送システム』の周波数ではないため、国内では違法となる」と注意を促しました。
余談ですが2020年2月現在、「DJI Digital FPV System」の公式サイトに日本国内からアクセスすると、「お客様のお住まいの国/地域ではご購入いただけません。」と表示されます。

戸澤氏は最後に、アマチュア無線のFPV目的利用に関して、違法デバイスが多数出回っていることもあって運用がグレーになっており、昔からアマチュア無線を楽しんできた層に煙たがれている向きがあると話し、無理解からくる行動で法を犯した結果、アマチュア無線関連制度が思わしくない方向に規制されたりすることがないよう、法規制に対する理解と遵守を心掛けてほしいと締めくくりました。

※1 VTX:Video Transmitterの略。ドローンに搭載されたカメラがとらえた映像をゴーグルへ伝送するための機器。
※2 軍事・防衛等の目的ではなく、民間での利用目的と言う意味で利用しています。
※3 ISM帯:Industrial, Scientific and Medicalの略。通信以外の産業・科学・医療等の分野で、周波数帯をひろく使えるよう割り当てられた、国際的に定められた周波数帯域

酒井氏:「『トイドローン=どこで飛ばしてもよい』は大きな間違い」

続いて登壇したのは、一般社団法人日本ドローン無線協会(JDRI)の酒井淳一郎(さかい・じゅんいちろう)氏。酒井氏は「ドローンを取り巻く法規制とモラル」と題し、初心者が犯しやすいミスをなくすため、ドローンの操縦にかかる各種の法律について、少し広い目線から、かつ、私たちがこれまで知っているようで知らなかったこまかな点まで、丁寧に解説しました。

酒井氏はまず、ドローンとの関わりが非常に深い航空法から説明。「ドローン(=無人航空機)」は「自律して動くもの、かつ機体重量200グラム以上のもの」と定義されていることを示しつつ、かと言って200グラムに満たない「トイドローン(=模型航空機)」が航空法の適用をまったく受けないわけではない、としました。
一般的に、ドローンの飛行が制限されている空域として、①空港周辺、②人口密集地域(「DID地区」※4とも呼ばれます)、③150メートル以上の上空、が定められていますが、酒井氏は「2019年の航空法改正により、200グラム未満のトイドローンに関しても、『①空港周辺での飛行NG』、かつ『250メートル以上の上空での飛行NG』が追加された」と話しました。

ところでみなさん、「空港周辺」が、具体的に空港の周囲何キロメートルくらいのことを指すのかご存知でしょうか。
酒井氏は、「大きい空港(羽田空港、成田空港等)の場合は『20~24キロメートル』、小さめの空港の場合は『6キロメートルくらい』」と解説。その上で、「警察が最近、特に空港周辺でのドローン飛行に関して取り締まりを強化している」としました。
また、DID地区での飛行についても、「DID地区内の家の場合、たとえ私有地であっても庭でのフライトは航空局の許可が必要」だが、「ただし、四方や上面がネット等で囲われた状態であれば屋内とみなされるためOK」と、筆者自身も心の中に抱いていたもやもやを取り払ってくれました。

航空法以外にも関連し得る法令として酒井氏が次に挙げたのは、道路交通法や鉄道営業法、新幹線特例法といった交通インフラに関連する法律。特に新幹線特例法に関しては、「新幹線の敷地内への侵入に対し、警察が非常に敏感になっている」とし、新幹線の線路付近でのドローンフライトは絶対にやめるよう警告しました。

その他、河川法や都市公園法、軽犯罪法、個人情報保護法や民法、さらに都道府県の条例等も挙げ、これらすべてに配慮すべきとしました。
さらに注意すべき点として、これら(航空法以外の)一連の法規制は、200グラム未満のトイドローンにも適用すると指摘。トイドローンだからと言ってどこで飛ばしてもいいわけではない、ということを強調して締めくくりました。

※4 DID:Densely Inhabited Districtの略。

第二回も開催予定!ぜひチェックを

大入り満員、大盛況のうちに幕を閉じた当セミナー、今年5~6月頃に第二弾を開催予定で、現在日程検討中とのことです。FPVレースやドローンに関わる最新の法規制動向を学べるまたとない機会ですので、今回残念ながら参加できなかった方、内容を復習したい方も、ぜひチェックなさって下さい。当メディアでも、日程決定しだいお知らせする予定です。