アツくなってきた水中ドローン。水深100メートルまで潜航可能な「BW Space Pro 4K」をレビュー

最近少しずつ、水中ドローンが注目されるようになってきています。
幸運にも、そんな水中ドローンを入手することができましたので、実際に稼働させた際の映像等もご覧いただきつつ、今回はこちらの機体のレビューをお送りします。

海洋大国・日本ならでは。注目を集めつつある「水の中ではたらくドローン」

最近は筆者のドローン仲間の中にも、活動の軸足を空飛ぶドローンから水中ドローンへシフトさせる人が複数名出てきました。
「『水中ドローン』って何?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。当メディアでもたびたび、空を飛ぶドローンのことを「正式名称は『無人航空機』」とお伝えしてきましたので、そこに「水中」という言葉がついただけでまず混乱するかもしれません。
水中ドローンとは、空を飛ぶものではなく、水中を潜水潜航可能な小型無人機の通称です(※1)。人が簡単に赴くことのできない場所で、人間の「眼」の代わりになってくれる存在、という点では、空を飛ぶドローンとまったく変わりはありません。

空を飛ぶドローンとの大きな違いは、まず「規制がほとんど存在しない」点(※2)。空を飛ぶドローンの場合、航空法を始め道路交通法や鉄道営業法、自治体の条例等々、関連する規制が非常に多く、飛ばせる場所がかなり限られているのが実情です。筆者も、いろいろな方から「ドローンってどこで飛ばせるんですか?」と質問を受けるたび、答えに苦慮している状況なのですが、一方の水中ドローンは、2020年4月現在、使用可能エリア等について明確に規定する法令が存在しない模様です(※3)。

空を飛ぶドローンとの違いの2つめは、「有線接続」である点。空飛ぶドローンは、ほとんどの場合Wi-Fi等の無線通信で機体とコントローラーとの間を接続しています(※4)。
一方の水中ドローンは、Wi-Fi電波が水の中には届かないことから、機体とコントローラーの間はケーブルを使った接続、つまり「有線接続」となります。このケーブルが、カメラ映像をリアルタイムで操縦画面へ送信する通信回線としての役割に加え、機体が波や潮で流れていってしまうのを防ぐコードの役割も果たしています。

水中ドローンの用途は、現時点では調査や設備点検、安全管理、水難救助等が多いようです。また水中ドローンの「はたらく現場」としては、現在あらゆる可能性が想定されていますが、直近で最も期待されている分野の一つとして養殖用設備が挙げられます。
いけすの中の魚介類の生育状況や死がいの除去、台風やしけによる設備の損傷状況の確認等のために、これまでは逐一職員が潜水する必要があったのが、水中ドローンを導入したことによりその手間が省け効率的に作業を行えるようになった、といった事例があるようです。四方を海に囲まれている日本ならではの用途、と言えるかもしれません。
そのほかにも、最近ではメディア向け映像の撮影や、エンターテインメント向け用途(VR等)も、徐々に盛り上がりつつあるようです。

※1 水空両用ドローンも存在します(徳島大学「Diving TRU」等)。
※2 今後状況が変わる可能性があります。
※3 なお当然のことながら、私有地(プール、いけす等)で水中ドローンを航行させる場合は、オーナーの許可を取ることが大前提となります。
※4 有線接続の無人航空機も存在します(エアロセンス社「AEROBO ONAIR」等)。

100メートルまで潜航可能、3速切り替えと自動調光も備えた「BW Space Pro 4K」

今回筆者は、幸運にもそんな水中ドローンを入手することができました。
筆者の手元に届いたのは、Youcan Robot社の「BW Space Pro 4K」というモデル。こちらのドローン、SONY製の4Kカメラに130度の広角レンズが装備されています。また最大100メートルまで潜水可能という点も特徴のひとつ。一般的に、ヒトが潜航可能なのは水深数十メートル程度ですので、水中世界の広がりが期待できます。また、自動調光システムを搭載しているので、周りの環境に応じてドローンが明るさを自動調節してくれます。
さらに、3段階のスピード切替え機能を搭載。対象物まで高速で近づき、じっくり観察するために低速に切り替えて動きをコントロールする、といったことが可能です。

高精細映像が撮影可能。自動調光はありがたい機能のはずと実感

届いた箱を開けた第一印象は「なんだか重くてものものしい」でした。
白い発泡スチロールの保護材が2段になっており、上の段には付属品類、下の段にはドローン本体が収められています。ドローンは手で持ち運びが容易なようにハンドルのようなデザインになっていますが、初めて持ち上げたときは思いのほか重くてよろけてしまいました(メーカーによれば機体重量は3.9キログラムとのことです)。水中では浮力が働くこともあり、ある程度の重量が必要なのかもしれません。

さっそく、北浦(茨城県)で稼働させてみました。 ※3月中旬に撮影したものです。

水中ドローンも空を飛ぶドローン同様、専用アプリをスマートフォンにダウンロードして操縦します。BW Space Pro 4 Kは「Youcan Dive APP」というアプリが、iOS・アンドロイド向けに提供されています。
機体にSIMカードを挿すことができないため、撮影した静止画や動画はアプリ上に蓄積されます。アプリの「アルバム」画面上に撮影映像がサムネイル表示され、いつ撮影したものか、動画か静止画か、が見分けられるようになっています。こちらもMavic Miniのアプリ画面同様、表記中にタイポがあるのはご愛敬ですね。

撮影動画をアプリ上でカットすることや、誰か(または他のアプリと)共有することは可能ですが、Mavic Miniのアプリのような色の補正や再生速度の調整まではできない模様。なお、こちらの編集画面・さきのアルバム画面とも、画面ローテート(スマホの向きに応じて画面表示も回転させること)はできず、画面がタテ設定のままなのには、少し不満が残りました。

肝心の画質や撮影映像ですが、4Kを謳うだけあって確かに精細でキレイです。ただ北浦の水中で撮影した動画は、透明度が低すぎたため、水深0.02メートルの段階ですでに何も見えない状態でした。
後日、水中ドローン練習場で再度実験してみました。ライトの明るさを手動で切り替えてみたところ、調光度合いによって映像の見えやすさがだいぶ変わるのを改めて確認できました。BW Space Pro 4Kは自動調光機能が搭載されていますが、周囲の状況を自動的に判断して明るさを調整してくれる機能は非常にありがたいものかもしれません。

空飛ぶドローンとはこんな点が違う!空飛ぶドローンとは別のスキルが要求されるものかも

これまで水中ドローンに関しては、「水槽の中のドローンをちょっと操縦してみた」程度の経験しかなかった筆者。今回実際に北浦で航行させてみて、いくつか実感したことがありました。
まず一つ目は、「透明度の低い状況だとほぼ何も見えない」こと。筆者はスキューバダイビングのライセンスを保持しており、ちょっと考えればこれは至極当然のことだったのですが、北浦の水中も「緑色」しか見えませんでした。純粋な操縦練習であればそれでもよいでしょうが、「水中の風景も楽しみたい」ということであれば、透明度の高い場所で航行することが大前提だと考えます。
二つ目は、これはBW Space Proに限った話かもしれませんが、「横移動ができない」こと。スラスター(空飛ぶドローンで言うプロペラ)の配置の関係上、右方向や左方向への移動ができない、つまり空飛ぶドローンで言うところのエルロンがきかない作りのため、ノーズインサークル(※5)のような動きができないので、映像表現という意味では限られるかもしれません。もっとも、空中での大気の動きよりも水や潮の流れの方がきつい場合が多いであろう水中で、ノーズインサークルのような繊細さの求められる操縦が可能なのかは個人的に疑問ですが…
三つ目は、「ケーブルが絡まったらアウト」ということ。これは有線接続ならではの副作用と言えるかもしれません。ケーブルが途中で何かに引っかかったりすると機体の回収ができず、最悪の場合はその場所まで取りに行くことになります。岩場などではルート設定に注意が必要かも、と思いました。
また同時に、空飛ぶドローンで言うRTH(リターン・トゥ・ホーム※6)の機能も、現在発売されている水中ドローンで搭載されているモデルは限られているようです。つまり、自力で出発地点に戻さなくてはならないのですが、障害物の多いルートだったりすると帰還がかなり難しくなる場合もあるかと考えます。操縦に高度なスキルが要求されるものかもしれません。

※5 機首を被写体など特定の対象に向けたまま、そこを中心点にして旋回する飛行方法のことをさします。
※6 GPS等を頼りに、ドローンをホームポイント(離陸地点)まで自動で帰還させる機能をさします。