機能と性能向上で“懐”が大きくなった DJI Phantom4 Proレビュー

昨年末に発売となったDJIのPhantom4 ProとPhantom4 Pro+。同年春にPhantom4が発売されてからわずか半年あまりのリリースだけに、Phantom4のオーナーにとってはその進化がとても気になるところではないでしょうか。そこでここでは、Phantom4 Proに加わった新しい機能を中心に、Phantom4と何が違うかを、実際にフライトさせて検証してみました。

DSC_6228

まず、Phantom4 Pro(右)の外観は、Phantom4(左)に対してパッと見の違いはありません。しかし各部を見ると、センサーが増えていることがわかります。Phantom4では機体下面に超音波センサー2つと、ビジョンポジショニング用のカメラを2つに加えて、スキッド(着陸脚)前面にデュアル・ビジョンセンサーを搭載していました。一方、Phantom4 Proではこのデュアル・ビジョンセンサーを、スキッド後面にも装備しています。

DSC_6208さらに、機体側面に赤外線発光部と受光センサーを備えることで、機体上面を除く上下左右下面の5面に対して障害物を認識し、衝突を回避することができるようになりました。Phantom4は前方にステレオビジュアルセンサーを備えていますが、機体とカメラの向きが事実上同じになるため、例えば機体を後退させたり、左右にスライドさせたりしながら撮影するといった場合に、映像に注意がとられて機体の進行方向に注意が向かず、障害物に衝突する危険性がありまます。しかし、Phantom4 Proではこうした、カメラが向いている方向=機体の前方以外に機体を進めるような撮影でも、障害物に衝突する可能性が低くなったと言えます。

DSC_6211

絞りにAFと写真や映像にこだわるならこのカメラ

ハードウエアとしてPhantom4Pro/+がPhantom4と大きく違うのはカメラです。Phantom4のカメラが1/2.3インチの有効画素数12.3メガピクセルCMOSセンサーを採用しているのに対して、Phantom4 Proは1インチ20メガピクセルに拡大。そのサイズは1/2.3型の長辺が約6.2mm、1型は約13.2mmで、面積はPhantom4の約4倍にもなります。画素数が2000万画素と約1.6倍に増えていますが、その画素が並ぶセンサーの面積が4倍になったことで、1画素あたりのサイズを大きくできるため、より多くの光を取り込むことができ、結果として画質の向上を実現しています。

DSC_6201さらに、Phantom4 Proは新たに機械式絞りとオートフォーカス機構を採用。Phantom4はf2.8と絞りが固定で、20mm(35mm判換算)という超広角レンズの深い被写界深度により、固定焦点でありながら手前から奥までピントが合うパンフォーカスとなっていました。一方、Phantom4 Proは機械絞りにより開放f2.8からf11まで絞りを調節することが可能。ピントも最短1mから無限遠までのオートフォーカスとなり、絞りとピント位置を好みに調整することができ、写真や映像にこだわりのあるオーナーの方は、自分だけの表現を工夫することができます。

DSC_6261また、Phantom4 Proでは、新たにディスプレイを搭載したコントローラーをセットした「Phantom4 Pro+」を用意。従来のPhantom4のコントローラーのホルダーに取り付けるスマートフォン/タブレットに代えて、5.5インチの専用Androidタブレットを装備。1000cd/m2(カンデラ平方メートル)の明るさがあり、太陽光下においてフードなどで遮光しなくても十分な視認性を備えています。 

DSC_6272

従来のコントローラーのスマホ/タブレットホルダー同様、下向きに反転して収納することが可能。この5.5インチというサイズが、モニターを折りたたんだ際にコントローラーの左右、下面からはみ出さないので、持ち運びにも助かります。また、モニターとの重量バランスがよくできていて、コントローラーをネックストラップなどで吊った際に、モニターの重さでコントローラーが前方に回転してしまうようなこともありません。

このモニターは実のところ、Androidで動作するタブレットです。そのためモニターに表示されるDJI GO 4アプリはAndroid版となっていますが、小さいモニターサイズに合わせてか地図表示エリアがないなど、Androidスマートフォンやタブレット向けのDJI GO 4とも違いがあります。この独自のAndroid版DJI GO 4の操作感は、ユーザーによって好き嫌いが分かれるようです。

DSC_6224ちなみに、細かい所ではバッテリーが新しくなりました。容量が5,350mAhから5,870mAhに引き上げられ、スペック上の最大飛行時間が約28分から約30分に伸びています。ちなみにこのバッテリーは容量が大きくなったものの定価が20,000円です。このバッテリーの登場に前後して、従来のPhantom4用バッテリーは19,000円と価格が改定されています。また、相互に互換性があるため、新しい5,870mAhのバッテリーをPhantom4に使うことも可能です。

後ろも横も、全方位で周囲を見張るセンサーの実力

Phantom4Proで新たに採用されたセンサーを活かすのが、コントロールアプリ「DJI GO 4」に備わったインテリジェントフライト機能です。Phantom4でも、画像認識機能を使ったアクティブトラックやタップフライといったモードを利用することができましたが、Phantom4 Proでは、新たにジェスチャーモードとDraw(ドロー)モード、ナローモードが追加されました。

DCIM100MEDIADJI_0035.JPG

ジェスチャーモードは、Phantom4 Proのカメラが捉えた映像の中で、両手を使って四角い枠を作るような仕草をすると、自動的にシャッターが切れます。インテリジェントフライトモードの中からジェスチャーモードを選ぶと、モニターの映像上にアクティブトラックのようなターゲットマークが現れます。そこで大きく手を振ったりすると、そこに人物がいるということをカメラが認識。その上で、両手をそれぞれ“L”の字にして、四角い枠を作る仕草をすると、セルフタイマーが起動します。その後数秒間、機体のランプが高速点滅して、シャッターが切れました。シャッターを切るためにコントローラーを操作しなくていいため、一時的にプロポから手を離して、お気に入りのポーズを取ったりすることができる、まさに“セルフィー”のための撮影モードです。上の写真は、このセルフィーモードで撮影した写真です。

DSC_6397Drawモードは、上空から地面を見下ろす形でカメラが撮影している映像上に、指で飛行させたいルートを描くと、そのルートをなぞる形で自動的に飛行してくれるという機能です。使い方はとても簡単で、インテリジェントフライトモードの中からDrawモードを選び、モニター上の景色の中に希望の飛行ルートを指でなぞって描くだけ。あとは画面右側のメニューから、機体の向きと飛行速度を選び、「GO」を押すだけで自動的に飛行が始まります。

ウェイポイントを指定するような自律飛行と違い、飛ばしたいルートを描くだけという、とても直感的な操作なのが、誰でも使いやすいこのDrawモード。ただ、気を付けたいのは、実際に機体が飛行するルートとモニター上に描いたイメージとの違いです。

指で簡単に描けるだけにササッとルートを描いてしまいがちですが、周囲の樹木をはじめとした障害物をよく考えてルートを描かないと、実際に自律飛行を始めるとヒヤッとするようなことになりかねません。このモードは十分スペースのある場所で使ったほうがいいでしょう。

また、Phantom4でも搭載されていたActiveTrack(アクティブトラック)やTapFly(タップフライ)では、新たに搭載された後方のステレオビジュアルセンサーを活用できるようになりました。機体を後方に進めるような際に、障害物を検知して停止させたり、障害物を回避させたりするといったことが可能です。

例えば、アクティブトラックで捕捉した被写体が、機体に向かって進んでくるような場合、Phantom4では機体を後方に下がらせない設定にするか、障害物があった場合でもそのまま機体が進んでしまうしかなかったのですが、Phantom4 Proでは後方のセンサーが障害物を検知して、機体の進行を止めることができるようになっています。実際にアクティブトラックで人物を認識させて機体に近づいていくと、最初は人物の動きに合わせて機体が後退しますが、後方の障害物を検知すると、機体はその場で停止。さらに進む人物に合わせてカメラが下を向くことで、捕捉を続けるという動きを見せました。

さらに、新しい飛行モードのひとつ、ナローモードを選択すると、前方の障害物を検知する範囲を狭める代わりに機体側面の赤外線センサーが働き、左右の障害物への接触を防いでくれます。赤外線センサーの検知範囲はおよそ3mとのことですが、もともと左右の幅が狭い場所に対して、安全に前進しながら入っていくための機能なので、この検知範囲で十分だといえます。試しに左右に障害物を置いた状態で、その間にPhantom4Proを進めると、障害物の間では左右にスティックを倒しても、機体は中央から動くことはありませんでした。

解像感の高さと広いダイナミックレンジの映像!

最後にPhantom4 ProとPhantom4で撮影した画像と映像を比較してみました。まず、大前提としてPhantom4 Proはセンサーサイズが変わったことと、レンズを刷新したことでPhantom4と画角が異なり、Phantom4が35mm判換算で20mmだったのに対して、Phantom4 Proは24mm相当で、やや撮影範囲が狭くなっています。その上で同じ16:9の写真で比較した場合、Phantom4は4000×2250ピクセルであるのに対して、Phantom4 Proは5472×3078ピクセルとなっています。

同じアングルに機体を飛行させて、オートモードで撮影した映像を比較してみると、やはり描写の繊細さでPhantom4 Proに軍配が上がります。また、Phantom4 Proの画像の方が明暗部の階調表現が豊かで、やはりここにセンサーサイズを拡大したことで、ダイナミックレンジが向上した効果が表れています。また、カメラに新たに装備された絞りは、最少絞りがf11となっていますが、良好な解像感が得られるのはf8あたりまでという印象。ただ、空撮の場合、絞りによる描写の違いはあまり感じられませんでした。

DCIM100MEDIADJI_0104.JPG
DCIM100MEDIADJI_0104.JPG

Phantom4(f2.8・1/636秒・ISO100) 拡大画像はこちら

DCIM100MEDIADJI_0038.JPG
DCIM100MEDIADJI_0038.JPG

Phantom4 Pro(f5.6・1/400秒・ISO100) 拡大画像はこちら

Phantom4 Pro(4K・30fps)

Phantom4 ProとPhantom4を比較しながらテストフライトをして分かったことは、Phantom4 Proは単にレベルの高い方向に進化しただけでなく、その一方で、安全性を高めることでより多くの人が空撮を楽しめる“懐の大きさ”を得たことです。カメラは同時に発表されたInspire2のX4Sと同等という高い性能が与えられたことで、よりハイレベルな撮影を求める人を満足させてくれます。そして、ビジュアルセンサーや赤外線センサーの追加で高まった安全性と、さらに充実したインテリジェントフライトモードによってより多くのオーナーが安全に、そして高度なフライトを簡単に楽しめるようになりました。

Phantom4Proが登場したのに前後して、Phantom4の価格は123,000円にディスカウントされました。Phantom4Proの価格が204,000円(Phantom4 Pro+は239,000円)ですから、その価格差はかなり大きくとても悩ましい所です。そういう意味では、まずはドローンの世界に触れてみたい、空撮にトライしてみたいという方にはPhantom4でも十分な性能があります。ただ、よりきれいな写真や映像を撮ってみたいという方にとっては、Phantom4 Proの機能と性能には、その価格差を埋めるだけのバリューが十分あるのではないでしょうか。