深圳ドローン・IoT市場視察ツアー2018 実施レポート(ダイジェスト版)

ドローンメディアが定期的に開催している「深圳(しんせん)ドローン・Iot市場視察ツアー」は、ドローン企業を中心に現地企業の見学やキーマンとの会談等を通して、深圳の最新の状況を視察するツアーとなっています。本記事では2018年6月21日から24日に掛けて実施された同視察ツアーのレポートをダイジェスト版でお届けします。

イノベーション都市・深圳の概要

出典:https://insights.upfront.com/the-future-of-manufacturing-and-hardware-is-happening-today-in-shenzhen-a8f4c4d4a9f8

深圳は近年急速な発展を遂げており、世界的に有名な企業を多数輩出しています。このことから「中国のシリコンバレー」としても知られており、ドローンの世界トップメーカーであるDJI社もこの深圳で創業しています。

元々は人口30万人ほどの小さな漁村だったこの街が、わずか30年ほどの間に人口1400万人を超える大都市になっており、「世界で最も急速に成長した都市」としても知られています。また、2008年は地下鉄が2路線しか走っていなかったところ、2018年現在は8路線走っており、そして2035年には20路線になる計画になっているなど、今後も急速な成長が見込まれています。

2008年ごろの深圳の地下鉄網
2017年ごろの深圳の地下鉄網

都市の面積は東京都とだいたい同じくらいで、10の行政区に区分けされています。福田区は金融証券、南山区はハイテク産業、宝安区はハードウェア産業など、それぞれの行政区で重点産業が明確に分かれており、各行政区から毎年のように有望なスタートアップが生まれている状況です。

深圳に滞在するとまず感じるのが、街を歩く人のほとんどが若者ということ。政府の発表によると、深圳在住者の平均年齢は32歳程度とのことで、新興産業を生み出し続ける活力にもなっているといわれています。

テンセントなどの巨大企業と創業間もないベンチャーが混在するハイテクパーク

今回のツアーは2018年6月21日の早朝に成田空港に集合し、香港を経由して深圳入りしました。深圳には成田空港から直行便が出ていますが、1日1便しかなく到着が深夜になるなど時間も悪いため、香港を経由して深圳に入るのが一般的です。

香港空港に到着後、チャーターバスに乗って深圳へ。深圳に移動する車中では、深圳在住30年の日本語堪能な中国人ガイドによる深圳の概要の解説を聞きながら、中国への入国審査を経て深圳入り。参加者の荷物も多いためいったんホテルにチェックイン後、本ツアーのアテンダントである川ノ上氏と合流。

株式会社エクサイジングジャパン 代表取締役 川ノ上和文 北京、上海、台湾で活動後、2017 年より拠点を深センへ。ドローンを始め、新興産業調査や営業支援、各種企画運営業務を行うエクサイジングを深センで創業。現在は日本法人も設立し、活動を拡大中。執筆、講演実績多数。

今回のツアーでまず最初に訪問したのは、南山区のハイテクパーク。ここにある「創業広場」は、党の創業支援センターを中心にインキュベーターやベンチャーキャピタルが入居する施設が集合している地域です。目の前には深センを代表するIT企業テンセント社の本社や、アリババ社やバイドゥ社の深セン支社などがあります。

創業広場 政府のスローガンが並んでいます

このハイテクパークにある創業広場は近年日本でも知名度が高まっており、個別に視察される企業も増えているとのことで、中国の地図アプリとGPSさえあれば比較的気軽に訪れることのできる場所となってきています。

この地区を散策すると、ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルの看板やベンチャー企業などの看板が各所に並んでおり、「創業都市」としての勢いが伺えます

しかしながら、深圳在住でドローンはじめとしたテクノロジー分野に造詣が深く、現地企業や行政担当者などとの幅広いネットワークを持つ川ノ上氏による解説は、「なぜこの地に巨大企業の本社が集まっているのか」「なぜ数多くの最先端ベンチャーが生まれ続けているのか」「党による創業支援政策やベンチャーキャピタルの動向」「街中のいたるところに掲示されているイノベーションを推奨するスローガンと挑戦と失敗に対する空気づくり」など、ただ個別に訪問して建物を見るだけでは不可能な、本質的な情報と理解を得ることができます。

値札には決済用のQRコードが表示されています

その後、近くにあるテンセント社系列のスーパーを視察。スーパーにはレジカウンターが無く、スマホのアプリを通して決済を行うとのことで、これからの小売業の在り方を考えさせられるものでした。

不夜城ともいわれるTencent本社

1日目の夜は、テンセント本社近くの広東料理屋で、川ノ上氏の「深セン産業の現在」についてのミニセミナーを実施。川ノ上氏の話によると、創業広場のある南山区は深圳市内で最もGDPが高い地域で、ハイテク産業の振興に力を入れているとのことです。また、深圳で創業した巨大企業も数多くあり、SF社やBYD社、BGI社等を紹介されていました。

SF社は中国最大級の物流企業で、ドローン物流にも力を入れています。BYD社はバッテリー製造から始まり、現在は自動車やモノレールの製造も手掛けています。市内で走っているタクシーやバスはほとんどがBYD社が製造したものです。彼らはグリーンシティというソリューションを提供する方向性にシフトしています。モノレールや電気自動車をパッケージとして新興国に販売しています。BGI社はゲノム解析で有名な会社です。こちらはもともと北京の企業ですが、深セン市がこちらに誘致しました。他にもDJI社やメイクブロック社等、多数の有名企業を輩出しています。

ウェルカムパーティーの様子

川ノ上氏のミニセミナーの後は、ウェルカムパーティーの時間に。お酒と広東料理のコースを嗜みながら、それぞれの自己紹介と懇親の時間に入っていきます。時間が経つに連れて参加者同士の話が弾んでいき、あっという間に時間が過ぎていきました。

アジア最大級のドローン展示会「UAVエキスポ」視察

UAV EXPOの会場で記念写真

2日目はホテルで朝食ビュッフェを食べた後に集合。深圳コンベンション&エキシビジョンセンターで開催されたUAVエキスポを視察しました。

固定翼ドローンが多数展示されていました

このUAVエキスポは中国UAV産業連合会と深センUAV産業協会が連名で主催している展示会で、今年で3回目を迎えます。この展示会は中国内で行われる産業ドローン展示会の中でも注目が高いものになっており、中国国内の企業を中心に120以上のドローン関連企業が参加しています。

水陸両用など日本にはない産業用ドローンの展示も

ドローンメーカーと言うと真っ先にDJI社を思い浮かべる方も多いと思いますが、本展示会ではDJI社のブースは比較的小さく控えめなものになっており、多くの「産業用ドローンメーカー」が大型ブースを構えるなど、日本の展示会とは全く様相の違うものとなっていました。特に、軍事や警備、農業等での用途を前面に押し出しているものが多く見受けられました。また、固定翼ドローンの割合の多いことも印象的でした。

川ノ上氏によるトランシーバーを使った解説の様子 参加者からは大変好評でした

展示会場では、まず最初に川ノ上氏の解説を聞きながら一通りのブースを巡っていき、その後個別にブースを見学する形式で視察を実施。参加者には事前にイヤホン型トランシーバーが配布されており、各ブースから鳴っている音を気にすることなく、クリアな音で快適に川ノ上氏の解説を聞くことができました。

日本では見られない珍しいタイプのドローンも

UAV EXPOの会場には100を超える産業用ドローンが展示されており、とても本記事で紹介できるボリュームではないため、詳細はまた別の機会でご紹介しようと思います。

ドローン2台を垂直に飛ばす珍しいドローン

その後、会場近くの雲南料理店で昼食。参加者同士で展示会の所感をシェアしながら、美味しい料理に舌鼓を打ちました。

オートメーション化された最新スーパー

ネット経由で注文された商品を入れる専用バッグ

昼食後は、アリババ出資の最新スーパーを視察。

注文が入り次第、店員が専用バッグに商品を入れていきます

このお店ではネット経由で商品を注文すると、店内にいる店員のスマホに注文情報が送信され、スマホを片手に持った店員がネットからの注文を受けて、次から次へと注文された商品を店内の在庫から専用配送バッグに入れ、天井を這うベルトコンベアーに載せていきます。

注文された商品を詰め終わったら、フックにかけて配送センターに送り出します

注文の品を専用配送バッグに入れたら、天井を這うベルトコンベアーに載せます。

店内の天井を移動する荷物 ロジスティクスの未来を見た気がしました

専用配送バックが行く先にはバイク便の配送センターがあり、いわば「イトーヨーカドーのネットスーパーの未来形」を実現しているような店舗となっていました。

こちらのお店も無人レジとなっていました

深圳ドローンフォーラム聴講から華北強視察へ

政府関係者やベンチャーなどさまざまなドローン関係者が講演しました

続いては会場を移し、「航空宇宙産業イノベーションフォーラム」を聴講。先ほどのイヤホン型トランシーバーによる川ノ上氏の同時通訳で、深圳市投資推進署や現地大手企業、外資系ではエアバス社など含めた数多くの企業の講演のほか、深圳ドローンベンチャー企業のピッチなどが行われており、本場の最新情報のキャッチアップを行うことができました。

巨大電気街、華強北の店舗の一角 マニアックな部材が売られています

その後、電気街として有名な「華強北」を視察。秋葉原にあるラジオデパートのようなビルが何棟もあり、いたるところにiPhoneの修理ショップが並びます。また、街中ではセグウェイのような乗り物に乗っている人をみかけたり、ショップの店頭でドローンを飛行させていたりする風景も多く目にします。

自販機タイプの無人コンビニ

また、電気街の中には最近数を増やしているという「無人コンビニ」もありました。今回見た「無人コンビニ」は二種類あり、片方は液晶タッチパネルで商品を選び、決済すると商品が取り出し口から出てくるものと、もう片方は冷蔵庫から自分で商品を取りだし、決済を行うものでした。決済にはWeChat等のスマートフォンアプリを使用し、現金やクレジットカードを利用することはできません。

冷蔵庫から取り出すタイプの無人コンビニ

スマートフォンアプリの決済機能を利用するためには、一般的に中国国内の銀行に口座を保有する必要があるなど、旅行者にとってはハードルが高くなっています。今回はガイドの川ノ上さんが「無人コンビニ」での買い物を実演してくれました。タッチパネルでコーラを選択し、その後出てきたQRコードをアプリで読みとり、決済を行うと、(少し時間が経った後)取り出し口からペットボトルのコーラが出てきました。実際にその流れを目のあたりにするとかなりインパクトがあり、ツアー参加者の皆さんは大変興奮されていました。

アジア各国のドローン関係者が集まるミートアップ

深圳企業やアジアゲストを交えたミートアップの記念写真(参加者が帰ってしまった後に撮った写真で人数が少ないです…)

夜は、インキュベーション施設である「思微」へ移動し、入居している企業や海外ゲストも交えて「海外出張版ドローンミートアップ」を行いました。

参加者が短い時間で自社のPRを行う「ライトニングトーク」では、インドネシアやネパール、台湾の方がプレゼンを行うと共に、ツアー参加者であるDRONE IP LAB代表の中畑さんらも発表を行いました。

様々な国々のスタートアップや、深センを拠点に活動している日本人の方々とのディスカッションを行い、興奮冷めやらない中、2日目の日程を終了しました。

ドローン企業への個別訪問&ディスカッション

3日目は、各ドローン関連企業への訪問と事業ディスカッションを中心とした内容となりました。

ドローン産業の市場推移

まず最初に訪問したのが投資部門も持つ中国無人システム産業連盟で、「ドローン産業の注目トレンド」という内容でセミナーを開催いただきました。中国におけるドローン産業の現状と今後の注目領域について、具体的なデータを元に大変示唆の富む内容のお話をいただきました。

農業ドローンソリューションを展開する企業のプレゼン

続いて同建物の別室にて、中国国内でドローンによる農業サービスを提供しているダーニン社との意見交換の場を設けさせていただきました。

ダーニン社では農薬散布や農作物育成管理等のサービスを提供しています。プロモーションムービーとして見せていただいた映像は、深夜に複数台の農業用ドローンが編隊飛行をしながらオートメーションで農薬散布を行っているというものであり、未来のドローン活用の可能性を感じさせるに十分過ぎる内容でした。

また、同社はサービスやソリューションに力を入れている企業であり、最も印象的だったのは「重要なのは顧客の課題をどう解決するかという話であって、ドローンの機体は必要なものをその時その時で外部から調達すればよいと思っている」という割り切ったコメントの内容でした。

日本人でも深圳で創業できる?

昼食ではウイグル自治区の名物「牛肉麺」に舌鼓を打った後(シンプルながらビックリするほどおいしいお店です!)、深圳市投資推進署に向かい、深圳の投資の現状についてお伺いしました。深センでは国内に限らず、海外からの投資も積極的に呼び込む方針を取っており、エアバス社の誘致に成功する等の成果も出てきています。

深圳投資センターによる市場の最新動向セミナー

お話の中で最も興味深かったのは、日本人でも深圳に会社を設立することは思ったよりもハードルが高くなく、深圳で会社を設立さえすれば、日本人が設立した会社であっても「深圳の会社として手厚くサポートをしていきます」とのことでした。

近年盛り上がりを見せる水中ドローン市場

そして、最後は水中ドローン「CCROV」を開発・製造するVxfly社に伺いました。

水中ドローンのプレゼン

Vxfly社では、船体の点検やレジャー等の用途を想定した水中ドローンを販売しています。次々に新モデルを開発しており、そのスピード感はまさに「深圳速度」と言えるでしょう。当日は土曜日の訪問でしたが、何人ものエンジニアが粛々と開発を進めている姿が印象的でした。

水中ドローンはここ1~2年で大きな盛り上がりを見せ始めており、同社は海に囲まれた日本を重要な市場と位置付けています。既に日本の代理店との契約も行っており、これから本格的に機体販売していきます、と力強く語られていました。

前海地区で水中ドローンメーカーと記念撮影

同社は南山区にある前海という新興企業のインキュベーション施設の集積地区にオフィス構えており、家賃の優遇なども含めた深圳行政によるバックアップを手厚く受けながら事業展開しているとのこと。

会社説明とプロダクト説明、意見交換やディスカッションを行った後、水中ドローンの操作体験へ。水中ドローンの操作をするのは初めてという参加者も多く、手元のプロポの操作にクイックに反応する水中ドローンの挙動に驚きの声を上げていました。

参加者同士でのツアーの振り返り

企業訪問後は、いま深圳でブームになっているというココナッツ鍋を食べながら、参加者みんなでツアーの振り返りを実施。ココナッツ鍋のスープは鶏のうまみとココナッツのほのかな甘さが絶妙なマッチしており、そのおいしさに皆が舌鼓を打ちました。

ツアー後の参加者アンケートでもこの振り返りは非常に好評で、同じ場所を見たり話を聞いたりしてもそれぞれのバックグラウンドの違う参加者によって捉え方は変わっており、その内容をシェアすることで「深圳という都市の現状」を多面的に理解することができました。

深圳最新サービス体験

ツアーの最終日は深圳市街を散策する中で、シェアサイクルに乗ったり、WeChat の提供する多彩なサービスについて川ノ上氏から説明と実演がありました。

その後、チャーターバスにて香港空港に向かい、成田空港へ帰国。

今回の視察旅行では、深センの最新の状況を視察し、中国のドローン産業の実際のところや、現地の企業がどのようなマインドで経営を行っているかを学んだり、最先端のIotサービスを目のあたりにすることで、おおきな驚きがありました。

この記事を通して、少しでも私が体験した内容を皆様とシェアできればと思います。そして、是非、深圳に行って自分で体験してみてください!

3泊4日という短い時間ながら、とても盛沢山の内容だった「深圳ドローン・Iot市場視察ツアー」。紙面の関係上ここでは書ききれなかった内容は、後日別の形でまとめてアップする予定です。UAVエキスポで展示していた企業や機体の概要を写真と共に多数紹介、またダーニン社の業務執行責任者が語る深センのドローン産業の実際についてや、ガイドの方が語る深セン企業の給与や家賃の等、多数の写真とともにご紹介する予定です。お楽しみに!