ドローンカメラマンとして空撮を仕事に(後編)今後の事業展開への想い

このたび「ドローンでひらく、新たなキャリア」連載をスタートさせていただくことになりました。筆者は、「テクノロジーがビジネスや働き方に与える変容」「人生100年時代」をテーマに、ライター兼キャリアコンサルタントとして活動する傍ら、ドローンスクールを卒業したばかりの超初心者。ドローンが気になる、けど仕事になるの?という疑問や不安を解消すべく、ドローン業界で働く先人たちのキャリアや価値観を伺いご紹介させていただきます。

連載初回は、株式会社ウィンターフェル代表取締役社長 兼 株式会社ドローンエモーション TV事業部長でドローンカメラマンの木澤尚之氏を直撃。後編では、ドローンカメラマンの仕事内容や醍醐味、今後の事業展開とそこに込めた想いに迫ります。

ドローンカメラマンは、あくまで「裏方」

−−テレビ番組制作での、ドローン空撮業務について教えてください。

 テレビ番組での主役はあくまでタレントさんであり、そこにはドラマがあります。ドローンカメラマンが担う役割は、そこにサプリメント的な映像を空撮することです。要は、差し込みの画を撮ることが仕事になります。 

 ディレクターさんからのリクエストの理解力や、そのリクエストを具現化する提案力が向上しなければ、プロのドローンカメラマン、つまり使い勝手のよい業者さんにはなれません。操作が上手いだけでは、スタートラインには立てないのです。

 ですから、もしドローンカメラマンを目指したい方がいらっしゃったら、お伝えしたいのですが、操作レベルは練習して早々にクリアして、操作していると意識せずに飛ばせるようになったら、全力で画のスキル向上に注力すべきですよ。

−−ドローンカメラマンのお仕事を、面白いと感じるところは? 

 すでに決まっているお題に対して、いかに期待以上の画を提供するか、裏方のポジションに徹して空撮をできるところが面白いです。自分の力が発揮できるところだし、モチベーションも上がります。

 テレビ番組の制作では、ひとつひとつのカットが意味を持って撮影されています。視聴者の方々に、それを無意識的に感じてもらえるよう、強い目的を持って撮影に挑めるところは、やりがいを感じますね。

 ドローンカメラマンとしていちばんの醍醐味は、「他人の為にカメラを回すこと」。ディレクターさんの意図に沿っていて、それでいて綺麗な画で、番組を放送するうえで意味があるカットを撮影できた時は、とても嬉しいです。

 でもね、現場にはいない、編集をしているディレクターさんの意図までを汲み取って、カメラを回すのは、まだまだ自分にとっては難しい作業です。毎回、番組が放送されたら実際に見て、失敗の原因を自分なりに考えて、次に生かす。追求し続けるのは、本当に面白いです。

−−ドローンカメラマンに徹していらっしゃることがよく伝わります。

 そうですね、自分が歩んでいる道は、先輩方が開拓して示してくださったドローン空撮ビジネスとは、少し違う道ですね。自分は、ドローングラファではなく、裏方のドローンカメラマンだと思っています。

 アーティストとして作品を発信していくという、王道の路線ではありませんが、事業として成り立つことが成功だという軸でみると、これでも成功だと言えるのかな。最近少しだけ、そんな風に思えてきた自分がいます。

 一方、画の理解レベルでは、その道20年という地上のカメラマンさんには敵いません。それでも制作スタッフの方々は、ひとつの技術職として、対等に扱ってくださる。これはドローンならでは、です。感謝こそすれ、そこに甘えず、もっと勉強しないといけない。

ドローン空撮事業を拡大したい

−−今後の事業展開について、お聞かせください。

 今年からはありがたいことに、空撮してほしいと依頼される素材の量が増えました。毎週4〜5日は「帰れマンデー見っけ隊!!(テレビ朝日)」のロケが入っているので、業務時間のほとんどを1つの案件に割いていることになります。

 事業のリスクヘッジ、ロケ現場に穴を開けない体制づくりのためにも、今後は、ドローンカメラマンとしてロケを任せられる方の採用や育成を進め、事業拡大を目指したいです。

 一方で、自分が事業拡大を目指したいと考えるのには、もうひとつ別に大きな理由があります。「ドローン空撮業界にも、お金を稼ぎながら、学び成長できる環境を創出したい」という想いが芽生えてきたのです。

−−その想いの背景にあるものは?

 田口先生が自分に用意してくれたポジションは、椅子取りゲームのように1つでした。自分は運と縁に助けられて、いまドローンカメラマンとして仕事をさせていただいています。

 田口先生が用意してくれた椅子を、自分の代では、幾つか用意できるように増やして行きたい。プロの操縦士としてドローンカメラマンを志す人が、業務としてお金がもらいながら勉強できる状態を作りたいと考えています。

−−現場での学びが、いまの木澤さんを作ったように、ですね。

 はい。とにかく現場に行って経験値を上げる、お金をもらっている責任感を持って自律的に勉強する、その段階にならないと、人は育ちません。自分の体験を通じて、よく分かりました。

 しかしドローン空撮はできたばかりの業界なので、他のクリエイティブな職業ではすでに成立しているような、対価を得ながら技術向上を図るということが、まだまだ難しいのが現状です。

 副業や趣味などでドローン空撮技術を向上するという方法もありますが、プライベート以外の仕事の時間も、ドローンの勉強に使えて、仕事として収入も得られる環境を、教える側の方から提供していかなければ、と成立しないと考えています。

−−最後に、これからドローン空撮の仕事を志す方へ、一言お願いします。

 先ほど、自分は運と縁に助けられて、ドローンカメラマンとしてお仕事をできるようになった、と話しました。運や縁だと聞くと、自分にはどうしようもできないと感じる方も、多くいらっしゃると思います。

 けれども運と縁だって、100%コントロールできないものではなくて、多少は自分の思い通りになってくれるものだということを、覚えておいてもらいたいです。

 運と縁が巡ってきそうな時に、そこで求められるものをこなせない自分だったらチャンスを流してしまうのだけど、こなせる実力があるなら、拾えるのです。そのときに相手の期待値を超えられれば、次の仕事がやってきます。

 チャンスが訪れたときに尻込みせず、練習はしてきたという自負を持てるよう、追求を続けながら、新しい人と出会い、自分が進みたい方向性を絞っていくことで、人生を少しずつ自分の希望に近しい方へ、進められるのではないでしょうか。

木澤尚之氏プロフィール

株式会社ウィンターフェル代表取締役社長 兼 株式会社ドローンエモーション TV事業部長。2017年1月より空撮を開始、同年10月よりドローンカメラマンとして「帰れマンデー見っけ隊!!(テレビ朝日)」の撮影業務に従事。(2018年4月、「帰れまサンデー」から番組名称変更)

編集後記

人手不足が続く昨今、人が育つ現場を創出する必要性が改めて叫ばれています。ドローン空撮という新しい産業において、早くもそこに着手した木澤氏。「ご祝儀と同じ考え方で、人に与えたものは、自分の子どもに返ってくる」というコメントが、とても印象的でした。