ドローンカメラマンとして空撮を仕事に(前編)スクール卒業後が勝負

このたび「ドローンでひらく、新たなキャリア」連載をスタートさせていただくことになりました。

筆者は、「テクノロジーがビジネスや働き方に与える変容」「人生100年時代」をテーマに、ライター兼キャリアコンサルタントとして活動する傍ら、ドローンスクールを卒業したばかりの超初心者。

ドローンが気になる、けど仕事になるの?という疑問や不安を解消すべく、ドローン業界で働く先人たちのキャリアや価値観を伺いご紹介させていただきます。

連載初回は、株式会社ウィンターフェル代表取締役社長 兼 株式会社ドローンエモーション TV事業部長でドローンカメラマンの木澤尚之氏を直撃。前編では、テレビ番組制作における空撮業務に従事する同氏に、スクール入校から仕事を始めるまでを伺いました。

ドローンに対する「高すぎる」期待

−−ドローンを始めたきっかけは?

 もともと息子と一緒にラジコンで遊んでいたので、自然な流れでトイドローンを買って遊ぶようになりました。当時は、「ドローンといえば空撮」というイメージでしたね。

 私はIT系の企業を経営してきたのですが、余裕があるときに次の展開を、とは常々考えていました。趣味でトイドローンを飛ばすうち、空撮だったら次の事業展開に繋がるのではと考えるようになり、スクールに通い始めたのです。

−−ドローンスクールに通った感想は?

 スクールでは、座学を田口厚氏(株式会社ドローンエモーション代表取締役)に、操縦訓練を渡辺秋男氏(有限会社クレセントエルデザイン代表取締役)に師事しました。

知識、技術やセンスを学べたことはもちろんですが、ドローン空撮の先人達や仲間との新たな繋がりを開拓できたことは、スクールに通う大きなメリットだと感じました。

 でも、スクールでドローンを10時間程度飛ばしただけで、空撮の仕事ができるわけがない。スクール最終日、実技の2日目、そのことにはっきりと気がつきました。

−−スクール卒業時、どんなことを考えていましたか?

 「仕事に結びつかなくても、趣味としてやってみよう、ハマれたらハマるだろうし、ハマれなかったら離れるだろう。」こう考えて、絶対に空撮を仕事にする、と自分自身を追い込むのは避けました。ドローン空撮は続けるけど趣味でもいい、と逃げ道を用意しておいたのです。

 でも普通に考えたら、スクールを修了して資格を取ったからといって、すぐに仕事ができるわけじゃないのは、ドローンに限らず同じでしょ。それなのに、ドローンを少し飛ばせるようになれば、自分がすごくパワーアップするような気がしていた。

 卒業と同時に、ドローン自体に対する「高すぎる」期待から目が覚めて初めて、ドローン空撮の仕事をするために、いま自分が何をすべきか、具体的に自分の頭で考えられた気がします。

「こいつを上手に飛ばして、こいつで綺麗な画が撮れるようになろう。」

スクールを卒業したあとが勝負だ

−−スクール卒業後は、どんな練習を?

 2016年12月にスクールを卒業し、2017年1月にDJIの機体を買って、作品を1本作ろうと思って飛ばした日が、自分にとっては空撮開始日。そこからは、操縦スキル、撮影スキルを上げようと思い、平日、土日に限らずとにかく飛ばしに行っていました。

 外で飛ばせない日も、ハイテックのX100という、スピードが出やすく機敏なトイドローンを使い、自宅で操縦練習です。バッテリー6本分、毎日欠かさず。やんちゃな機体を、自分が操縦しうる一番遅いスピードで、なるべく角が立たない感じで飛ばす、地味練ですね。

−−当時は、どんなことを考えていましたか?

 操作レベル、画の理解力、現場で必要とされる他のスキル、全てにおいて、仕事にするにはどのくらいのレベルが必要か、分かりませんでした。その状態で、「空撮のプロです」と看板を掲げることが、とにかく怖かったのを覚えています。

 だから、いまの自分ができることを考えて、時間があるときは屋外で、ないときは室内で、ドローンに触れている時間をできるだけ作ろうと考えました。ドローンに触れながら大事にしていたことは、丁寧かつ安全に、いつでも決まった動きをできる、つまりドローンを意のままに操れるということです。

 テレビの番組制作でドローンカメラマンとして仕事をするようになって、改めて実感していますが、飛行中に考えながらスティックを動かしていては、空撮現場はつとまりません。狭い室内でゆっくり飛ばす練習の蓄積が、いまの空撮業務の素地となっています。

−−オリジナル作品制作やSNS発信はしなかった?

 ドローン空撮といえば、田口先生や大前創希氏という大先輩が開拓された、ドローングラファ(R)になるという、空撮を仕事にするための一本の太い道が示されています。空撮して編集して、オリジナル作品を制作し、SNS発信やコンテスト応募を経て知名度を上げていく、これが王道ですよね。

 でも、自分は致命的なことに、編集ができないのです。作業としてはできますよ。でも、ストーリー性もメッセージ性もない、見ていて綺麗だなと思うだけの平坦な作品を逸しない。田口先生みたいにはなれないし、編集は下手だし、空撮が嫌いになりかけました(笑)。

−−どのようにお仕事につなげることができたのですか?

 自分は、絶対に空撮で食ってやる、と自分自身を追い込むのは不得意ですが、追求することは好きなタイプ。バスケの選手が試合も練習もないけど、ずっとボールを持っている、あれと同じ感覚で、練習というよりドローンを触れている時間を意識的に作っていました。

 そのことを田口先生は、見ていてくださったのだと思います。当時、田口先生がドローン空撮を担当していた「帰れマンデー見っけ隊!!(テレビ朝日)」のロケを、2017年10月に初めて任されたのです。空撮を始めてから、約10ヵ月後ですね。

木澤尚之氏プロフィール

株式会社ウィンターフェル代表取締役社長 兼 株式会社ドローンエモーション TV事業部長。2017年1月より空撮を開始、同年10月よりドローンカメラマンとして「帰れマンデー見っけ隊!!(テレビ朝日)」の撮影業務に従事。(2018年4月、「帰れまサンデー」から番組名称変更)

編集後記

努力はしたことがないという木澤氏。あるテーマを「追求」した先に、新しい仕事をつかみ取れるということは、ドローン空撮カメラマンに限らず、キャリア開発に共通していえることですね。ちなみに筆者は取材後すぐ、ハイテックX100をポチってしまいました。