最新フライトコントローラー「A3」から見えるDJIの次の戦略

全世界で販売されたドローンの累計台数は、そろそろ1,000万の大台を超えると見込まれています。数多くのドローンメーカーが熾烈な競争を繰り広げているなか、実に7割近いシェアを占めると言われているのが、世界最大のドローンメーカーDJIです。同社は、中国のシリコンバレーと称される製造業の一大拠点「深セン」を本拠地に、本社だけで1,000名を超える研究開発者を抱える巨大テクノロジー企業です。

DJIの強みは、ドローンの頭脳とも言える「フライトコントローラー」と、飛行中のカメラを安定させる「空撮用ジンバル」にあります。この2つに、高性能なドローンを他社に先駆けて低価格で販売する「ものづくりの力」が加わったことで、圧倒的なシェアを占めることになりました。

そして、そんな同社の強みであるフライトコントローラーで3年ぶりとなる新製品が、2016年4月に発表された「A3」です。

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コラム「ドローンのオープンソース化の流れと、ドローンコードが産業利用に与える影響」より

フライトコントローラーについてはこちらの記事を参照ください。

DJIの看板商品であるPhantomシリーズ

DJIの今日の成功のきっかけとなったのは2012年に発売を開始したPhantomシリーズです。
Phantomは初心者でもすぐに使いこなせる使い勝手の良さと空撮のプロを満足させる撮影性能、圧倒的なコストパフォーマンスの高さで、それまで誰も使ったことのなかったドローンというガジェットを世界中に普及させました。シリーズの発売開始からわずか数年で、米国TIME誌による「史上最も影響力のあったガジェット50選」にも選ばれるなど、世界的にはiPhoneやWalkmanといった誰もが知る偉大な製品と並び称される存在です。

2016年3月には最新作となるPhantom4を発表し、使いやすさに関する改善だけでなくアクティブトラックといった魅力的な新機能を搭載することで注目を集めました。ただ、新機能やきめ細やかな改善が注目を集める一方で、空飛ぶカメラとしてのドローンはすでに完成の域に達していることも感じさせました。

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ドローン交流イベント「DRONE MEDIA MEETUP Vol.4」で展示されたPhantom4

Phantom4の製品レビューについてはこちらの記事を参照ください。

産業利用のプラットフォームを目指す戦略を強化

DJIは昨年末、農薬散布に使用できる農業用ドローン「AGRAS MG-1」を発表したのに続き、消火活動や点検などで必要とされるセンサーデータの収集を可能にする空撮用赤外線カメラ「ZENMUSE XT」を発売するなど、産業利用のプラットホームとしてのドローンに力を入れ始めています。

そして、今回発表したフライトコントローラーの「A3」。その狙いは、産業利用に欠かせない「ドローン自体の信頼性の向上」と「外部との接続性(インターフェース機能)の強化」にありそうです。

例えば、同じコンピューターであっても、個人が利用するパソコンと社会インフラに使われるサーバーではハードウェアの信頼性やOSに必要とされる機能が異なるように、ドローンも民生用と産業用に分化していくことになりそうです。

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A3によって実現される信頼性の向上

A3は9つの異なるタイプのマルチコプターに標準で対応し、モーターの故障などでプロペラが3つの状態になったとしても、すぐには落下しない仕組みを組み込んでいます。さらに、GPSとIMUを3重化したA3 Proにアップグレードすることで冗長化による信頼性の向上と、より精度の高い飛行を実現することができるようです。

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GPSに依存しない飛行を実現するRTK(Real Time Kinematic)

また、A3のオプション機能である「DJIリアルタイムキネマティック(D-RTK)」では、地上に置かれた基地局が受信したGPS信号の誤差を計測し、校正電波を発信することでGPSで生じる±2m程度の誤差を、数cmのレベルにまで改善できるようです。基地局を複数用意することにより、将来的にはGPSにまったく依存しない飛行も可能になるかもしれません。

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そして、同じくオプション機能として提供される「DATA LINK」を利用することで最大5台のドローンを制御することが可能で、重い荷物を複数のドローンが協力して運んだりするような利用も想定されているようです。

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ドローンにもう一つの頭脳を追加するオンボードSDK

フライトコントローラーとは別のマイコンをドローンに搭載する「Onboad SDK」に対応していることもA3の大きな特徴です。プログラミング言語はCやC++で、この開発キットを利用することで、これまで様々な産業で使われてきたデバイスやシステムをそのままの形でドローンに搭載できるようになれば、産業利用を促進する起爆剤になるかもしれません。

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1,000名を超える研究体制とPhantomシリーズで培ったものづくりの力で、産業用のドローンにおいても圧倒的なNo1であり続けることを目指すDJIの動きから今後も目が離せそうもありません。