日本初!国際ルールに則った「F9Uドローンレーシング日本選手権」開催(後編)

2019年9月7日(土)・8日(日)の2日間、「第1回 F9Uドローンレーシング日本選手権」が開催されました。
前編では、練習と予選(1R)が行われた1日目の模様をお伝えしましたが、後編は予選(2R・3R)と決勝の行われた2日目の様子をレポートします。

いざ!決戦の朝

朝、前日同様に受付にて各選手の車検(機体のチェック)が実施されました。前日の夜、予選1R終了後に入念な機体整備を行った選手も少なくなかったのかもしれません。車検では、特に電池の電圧チェックが重点的に行われていました。
早めに会場入りした選手の中には、コースの片隅を借りて機体の作動確認をする人や、実際にコースを自分の足で回って確かめる人、また控えスペースでじっと目をつむりイメージトレーニングする人の姿も。皆、さまざまな過ごし方で集中力を高めていましたが、ドローンの目線になりきってコースを走っている選手の様子が、筆者には非常に印象的に映りました。

上:コースを自ら走ってまわる選手

さらに白熱した予選2R・3R

前日とはうって変わって緊張感のある雰囲気。前日は比較的自由な服装の選手も多く見受けられましたが、2日目は所属するレースチームのユニフォームを着用している選手が目立ちました。これは「試合」なんだ、という思いがいやが上にも盛り上がります。
ブリーフィング(ルールやスケジュールの説明)の後、予選2R・3R(合計3回の予選のうちの2回目・3回目)が行われました。前日の予選1Rと同様、コース1周回あたり最も早いラップタイムが予選記録として登録され、その順で決勝戦進出が決まります。
前日よりもさらにスピードを増した各選手の機体が、うなるような音を上げながらコースを周回。コース途中の上り坂になっている部分で上昇しきれず転落する機体や、のぼりに激しくクラッシュする機体も。有力候補と目されていた選手がクラッシュにより伸び悩んだり、機体が破壊してしまい残念ながら予選で棄権することとなった選手が出たりするなど、メイン解説の戸澤洋二さん(一般社団法人 日本ドローン無線協会・会長)の言葉を借りると「何が起こるか本当に分からない」、片時も目を離すことのできない波乱に満ちたレース展開でした。

上:「難所」だった上り坂部分

「ドローンレース」ってどういうもの?

ここで、ドローンレースとはどんなものか、ごく簡単に見てみましょう。
前編でも述べましたが、ドローンレースとはその名の示す通り、ドローンを走行させてそのスピードを競うもの。選手がFPV(First Person View)ゴーグルと呼ばれるデバイスを装着し、ドローンに搭載されているカメラから送信される映像を頼りに、あたかも自分がドローンに乗って操縦しているかのように機体を操り、他の選手と戦う競技です。
国内で行われているドローンレースにはいくつか種類がありますが、大きくはこのFPVゴーグルを用いる「FPVドローンレース」と、それを用いない「目視ドローンレース」とに区分されます(※)。
今回のF9UドローンレーシングはFPVレースに該当するもので、選手たちはFPVゴーグルを装着し、ドローンに搭載されているカメラから送信される映像を頼りにドローンを操縦します。このドローンからの映像伝送の際に、通常ドローン操縦で使われるWi-Fi帯域とは異なる周波数帯(5.8GHz帯)を使用することから、操縦にあたってはアマチュア無線免許の取得が前提となります。

上:FPVゴーグルを装着した選手たち

一方の目視ドローンレースとは、FPVゴーグルを使わずに戦う形式のレース。初心者やアマチュア無線免許を持たない人、FPVゴーグルを持たない人でも気軽に参戦できるのが最大の魅力です。筆者も目視ドローンレースにトイドローン(Tello)で出場したことがありますが、コース途中で自分のドローンを見失ってしまいました…。とは言え、それはそれでスリリングでしたよ。ただやはり、その経験をきっかけに(いつかFPVレースに出てみたい!)という気持ちが芽生えてしまい、結局アマチュア無線4級免許を取得してしまいました。

※呼称の定義はなく一定ではないようです。

「ドローン体力」が勝敗の決め手に

3本の予選を経て上位9名が確定し迎えた決勝戦。決勝は予選とは異なり、上位9名の選手がトーナメント形式で戦い、スタートの合図から最も速くゴールに到達した選手が1位となるレース形式でした。
蓋を開けてみれば、9名の選手のほとんどは10代から20代前半の非常にフレッシュな顔触れ。小学生レーサーも複数食い込んでいました。
筆者は前日同様、メイン解説者である戸澤洋二さんのアシスタントとしてサブ解説を担当し、放送席から観戦していましたが、この顔触れを見てつい、「動体視力の違いでしょうかね…」と口にしてしまいました。すると戸澤さんいわく「それもあるが、『ドローン体力』がある若い選手が絶対有利」とのこと。確かに、ファントムやアナフィといった通常のドローンでさえ、フライトさせた後は少し疲れを覚えてしまう筆者。ただ戸澤さんによれば、レースドローン操縦に必要な集中力は「その比ではない」のだそうですよ。

国際ルールに則り決勝は3本実施されました。その結果優勝の栄冠を勝ち取ったのは高野奏多(たかの・かなた)選手。次いで2位に川田和輝(かわだ・かずき)選手、3位が小松良誠(こまつ・りょうま)選手でした。
高野選手と川田選手はともに小学生レーサー、小松選手も高校生と、「ドローン体力」を見せつけられた形となりました。

上:左から2位の川田和輝選手、優勝した高野奏多選手、3位の小松良誠選手

ドローンは「ものづくり教育の充実」「親子の関係性向上」の救世主!?

筆者が2日間アシスタント解説の傍ら観戦していて感じたのは、「ドローンは『メカ』や『通信』に親しむきっかけになり得るのではないか」という期待、そして「ドローンを通じて親子の対話が増える可能性もあるのではないか」という期待でした。
機体の整備には、メカの基礎知識や半田付けのような基礎的技能が必要ですし、アマチュア無線免許を取得する上では電波の伝わり方や周波数帯の考え方といった通信の基礎知識も不可欠です。昨今、子供から学生まで「ものづくり離れ」や「理系離れ」に歯止めがかからないといった声もありますが、ドローンに触れることでこういった分野に触れ、理解を深めていくことも望めるのではないでしょうか。
とは言いながらも、小学生など若年層のレーサーにとって、機体の整備はさすがに高度な部分があるものと見受けられます。そうした中、親子で参戦し、機体の整備を親御さんが担当されているペアも何組か目にしました。ドローンレースは日本各地で行われていますから、その都度親子で泊りがけの参戦となるでしょうし、日ごろの練習も一緒に行ったりしているのかもしれません。ドローンを介して親子がともに行動し、同じ話題を共有できるなんて、なんと羨ましいことだろうか、とまぶしく感じた「F9Uドローンレーシング日本選手権」でした。

上:とある選手のレース機