昨年から始まり今回が第2回目となる、「建設・測量生産性向上展」(2019/5/22〜5/24開催)。前回より規模が拡大し、ドローンを使ったソリューションやソフトウェアも多数出展された本展示会の様子をレポートします。
<図1:会場の様子①> | <図2:会場の様子2> |
<図3:会場の様子③> |
GCPをゼロにするイノベーション
Sky Link社の今回の出展の目玉は、広域測量とPPK。
広域測量に関しては、具体的には「Wing Copter」というVTOLを扱うようになったという紹介でした。4月の国際ドローン展では みるくる社が出展していましたが、SkyLink社でも扱い始めたそうです。
固定翼機では離着陸場所の確保に課題があり、回転翼では航行可能時間に課題があります。その両方を解決するVTOLに注目が集まるのは当然でしょう。
<図4:VTOL 「WingCopter」> |
PPK(Post Processing Kinematics)に関しては、具体的には「KLAU PPK」という測位システムの紹介でした。ドローンの位置を知るためにRTKが使われて始めていますが、RTKがリアルタイムなのに対してPPKは後処理で精度の高い位置を求めるのだそうです。
後処理といっても2時間くらいだそうで、それで精度が上がるならしめたものです。 精度検証は、i-Construction基準の「5cm」以内におさまっているそうです。
<図5:PPKをPhantomとInspireに取り付けた例> |
RTKではGCP(地上に設置する標識で人手が大変でした)は「減らす」ことまででしたが、PPKだとGCPを「ゼロにする」ことができるはずです。
UAV写真測量において、精度を上げるためにはGCPの設置は必須でした。それがなくても良いとなれば、活用の幅は格段に上がります。
インターネットというイノベーションは、距離をゼロにする、というメリットをもたらしました。 PPKの仕組みはGCPをゼロにする、そんなイノベーションの予感がしました。
グリーンレーザーの技術をUAVに
黒色と緑色のブースで「グリーンレーザー」の展示を行っていたのは、アミューズワンセルフ社でした。
グリーンレーザーとは、水の中もある程度透過する波長を使って、川の底や海岸の地形を計測しようというものです。航空機では「Airborne Laser Bathymetry (ALB)」と呼ばれ注目が集まっていますが、それをドローンで行おうというものです。
<図6:アミューズワンセルフ社製グリーンレーザー> |
アミューズワンセルフ社の特徴は、センサとソフトの自社開発だといえます。
センサはGNSSなどが一体化した箱に収まり、重量も2.6kgと軽量だそう。Matrice600Proだとバッテリー半分でも25分飛行できるほどの軽さだそうです。
レーザーというと一千万円代の大型ドローンを思い浮かべてしまいますが、Matrice600Proという汎用機で飛行できるメリットは大きいと思います。
また、取得したデータは「基線解析」という難しい処理が必要なのですが、クラウドシステムに生データをアップロードするとその処理を行ってくれるそうです。
従来は竹竿を持って人の手で水深を測っていたものを、ドローンに搭載したグリーンレーザーを使うことで省力化が図れるかもしれません。
もちろん濁った水だと透過しなくてレーザーが届かないといった限界はあるので、その見極めも必要にはなります。
体当たりで橋梁点検
国内のドローンメーカーで有名なエンルート社も出展しており、今回はとても「ごつい」ドローンを展示していました。
フェンスではないか?と思うくらいのガードがドローンの周りに付いていいます。橋梁の点検に使われるのだそうです。
どのくらい近づくのかと聞いてみたら、「ガードをぶつける勢いで近くに寄って撮影します」ということで、それでこのガタイになっているそうです。体当たりでボールを取りに行くアメリカンフットボールの選手のようです。
<図7:エンルート社製 「PG700」> |
点検ということは、縦方向に規則的に飛行するソフトウェアが望まれるところですが、まだ手動航行により目視で操縦するのが現状のようです。
しかし、価格は数百万円だそうで、UAVレーザー測量用の機体などは数千万円するケースもあることを考えると、予想していたよりは安価でした。
自動航行や安全管理の方法が確立すれば、今後の普及が期待できる製品ではないかと思いました。
ROV (Remote Operated Vehicle)の価格破壊
セキド社も出展されてました。DJI製のドローンはもちろんですが、今回目を引いたのは「ROV (Remote Operated Vehicle)」でした。見た目は「水中ドローン」ですが、海事の世界では「ROV」という言葉が以前から使われていたそうです。
<図8:ROV 「BlueRobotics BlueROV2」> |
ROVの役割は、ダイバーの代替だと言えます。ダイバーでは水深100mは潜れませんが、ROVはケーブルさえ届けば300mでも潜れるそうです。
また、ダムの底では死亡事故が起きるケースもあるそうで、安全管理上ROVが期待されているとのこと。
かゆいところに手が届く天気予報
ウェザーニュース社も出展していました。
現場作業のある方にとって天気予報はとても大切なツールになります。今回は、有料会員が個人単位ではなく法人単位でも申し込めるようになったそうです。
そしてドローンの話になると、なんと「250mメッシュという細かい範囲で、150m上空までの10m刻みの空間を」予報できるというAPIを開発されたそうです。 予報の範囲がピンポイントでドローンユーザーにとっては喉から手が出るほど欲しい情報です。KDDI社向けに提供しているそうで、個人が購入できる訳ではないそうですが、APIということは他の会社と組んで個人向けに提供するということが起きてくるかもしれません。
【参考】ウェザーニューズとKDDI、ドローン向け高精細気象予測システムを開発
総論
建設業界・測量業界にとって、生産性の向上は至上命題といってもいいかもしれません。
なぜ生産性の向上をしなければならないのか?
それには、少子化に伴い働き手が少なくなるという「量」の問題があると言えますが、それなら建機の数を増やすといった解決方法で良いはずです。
しかし、それだけでなく職人の方々が継承する先がないまま高齢化していき熟練の技が継承されていかないという「質」の問題も複雑にからみあっていると言えます。
よって、同じ仕事を少ない人数で、品質を落とさずに続けていくということが求められていくわけです。
今は、ロボットなどによる労働の代替や、設計から施工までのプロセスの見直し、と言ったさまざまな解決方法が試されている最中と言ってよいでしょう。
その一つに、設計から施工までを3次元データを使って管理しよう、という考えがあります。その3次元データを作るために使われるツールとして、ドローンによる写真測量・レーザー測量が行われています。また、3次元データを扱うためのソフトウェアも出ています。
さらに、点検を目視ではなく映像から解析しようという解決方法もあります。その映像を撮るためのツールとして、ドローンが必要とされています。
そのドローンの性能向上や、作業現場の管理に必要なソフトウェアと言った周辺サービスもどんどん出てきています。
振り返ってみると、おととしまでは「ドローンの仕事」というと、空撮か研究開発が中心でした。昨年は、その段階から少しずつ産業界で使われ始めるのではという機運が高まった年だと思います。
そして今年は「既に使われています」という年になってきていると感じました。
イノベーターやアーリーアダプターの段階を超えて、アーリーマジョリティーの段階にいると言っても過言ではないと思います。
企業にとっては、今こそ乗り出さなければあっという間にレイトマジョリティーとなり、今度こそ主導権を握れなくなると思った方が良いかもしれません。
筆者は「Takayama Done Research」というFacebookページの中で「無人移動体」という表現をしています。
「ドローン」という言葉は意味拡張をしていて、空中から地上、水中にまで活躍の場を広げています。
将来は無人移動体がネットワークにつながり人間活動の基盤を支える、そんな時代が間違いなくやってくる、その確信を強めました。
<図9:”無人移動体”の活躍する未来図> |
まとめ
いかがでしたでしょうか?少しでも会場の熱気が伝わりましたでしょうか?
長くなりましたが、今回のレポートのまとめです。
・建設業・測量業にとって生産性の向上は至上命題である。
・生産性向上のために量の確保と質の担保が考えられる。
・既存の作業の代替としてのハードウェア技術、プロセス改善のためのソフトウェア技術、が複雑に絡み合っている。
・研究開発の段階から、既に使われて始める段階になっている。
専門的な用語も多くてわかり辛く、3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれて久しい業界ですが、ドローンの技術がそれも変えようとしていることがお伝えできていたならば、幸いです。
<参考URL>
Wing Copter TECNOLOGY , Wingcopter社
KLAU PPK , Sky Link社
TDOT GREEN , アミューズワンセルフ社
PG700 , エンルート社
BlueRobotics BlueROV2
お天気アプリ「ウェザーニュース」 , ウェザーニュース社
UAV未来論⑧「市場予想と未来予想」 , Takayama Drone Research