ドローンの操縦とプログラミングを学び、人生初となる転職へ

「ドローンでひらく、新たなキャリア」連載第4回では、株式会社アイ・ロボティクス 事業推進マネージャー 我田友史氏を取材。

毎日イキイキしていられることが成功なのであれば、転職して成功。

そう語る我田氏に、お話を伺いました。

前編では、2017年の春に突然訪れたドローンとの出会い、ワクワク感から貪欲にドローンを学んだ半年間、そして転職を検討するようになった背景に迫ります。

2年前、突然「出会い」は訪れた

−−ドローンを知ったのは、2017年春だったと伺いました。

2017年3月、車のなかでかけていたラジオで、ドローンで山間部に物を届ける実験をするというニュースが流れてきたのです。「面白いな」と感じて、すぐに自分でもトイドローンを買ってみました。

 

−−どの機体を購入されたのですか?

Parrot Mamboです。飛ばしてみて、驚きました。家電量販店のおもちゃ売り場で買えるようなドローンでも、こんなにも安定して、止まっていられるのかと。同時に、「これはビジネスになる」と感じました。

 

−−ビジネスになる、と感じた点は?

ドローンは、自由に好きなところを飛んで、情報(データ)を取って来ることができるツール。そこが一番すごいと感じましたね。

当時、ウェブカメラで天気をリアルタイムに調べてパソコンで見られるサービスが流行っていました。すごいなと思っていたけど、これだと位置は固定です。

でもドローンなら、自分のピンポイントで知りたい場所に行けます。カメラの他にもセンサーを使えば、いろんな情報を取得できるわけです。最初にそう着眼したのは、もともと私がソフトウェアエンジニアで、「ログが好き」という背景もあると思います。

 

−−エンジニアは、ログが好き(笑)

ログ、データ、クラウド…好きですよね(笑)。当時の業務でも、ビッグデータやクラウドの活用を推進していました。ドローンを見て、空撮や映像制作ではなく、データ取得の方面で特に可能性を感じた背景には、職業特性もあったと思います。

また当時は会社から、新規事業を企画するというミッションを命じられていました。ビッグデータ関連の新たなビジネスを考えていたところに、ドローンが現れたのです。本を読んだりして、ドローンのことを調べ始めました。

 

−−感銘を受けた本があったら、ぜひ教えてください。

 空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか?ドローンを制する者は、世界を制す」(集英社出版・高城剛著)です。ドローンスクールに通う前に読んだのですが、空飛ぶスマホであるドローンを使えばリアルな情報を持って来れる、という指摘が印象的でした。

 

ドローン漬けの半年間

−−ドローンに興味を持った後の、行動力がすごい(笑)。年表作成も、ありがとうございます。

まず5月にデジタルハリウッド ロボティクスアカデミー ドローン専攻(以下、デジハリ)に入学しました。

田口厚氏(Dron é motionドローンエモーション 代表)の授業は、みんなでただワイワイ楽しく飛ばすというだけではなく、基礎知識を学んだうえで「皆さんはどう思いますか」と考えさせて、さらに回答もきちんと用意されているところが、とても良かったです。

デジハリを卒業、JUIDA認定資格を取得してすぐに、ドローン・ジャパン主催 ドローンソフトウェアエンジニア養成塾(以下、エンジニア塾)に入塾しました。

2017. 3 Parrot Mambo購入
2017. 5 デジタルハリウッド ロボティクスアカデミー ドローン専攻入学
2017. 5 アマチュア無線4級取得
2017. 7 デジタルハリウッド卒業
2017. 8 JUIDA認定
2017.10 ドローンソフトウェアエンジニア養成塾(ドローン・ジャパン株式会社主催) 入塾
2017.12 ドローンソフトウェアエンジニア養成塾 卒塾
2018. 3 千葉県銚子市にてドローン体験会開催(企画)
2018. 8 千葉県銚子市にて海難救助コンテスト開催(企画・運営)
2018. 8 ドローン体験会アシスタント(複数回)
2018.10 ドローンエンジニア養成塾 オペレーションコース講師
2019. 4 アイ・ロボティクス入社
2019. 5 ドローンエンジニア養成塾 オペレーションコース講師

 

−−2017年の半年間で、ギュッと凝縮して学ばれていますよね。デジハリに通いながら、アマ4も取得した?

 機体を買えるところはないかと思って検索していたら、たまたま自宅からそう遠くない場所に、ドローンビレッジ(ドローン飛行施設)がオープンしたことを知りまして。そこでFPVを知って、「すげえ」ってなって。FPVをやるためには無線の資格が必要だと知り、デジハリ在学期間中に取得しました。

 

−−さらに続けて、エンジニア塾でも学ばれています。

 自分はシステム系のエンジニアをやっているのだから、それとマッチするのはプログラムだなと思って。「ドローン×プログラム」で探していたら、エンジニア塾が見つかって。デジハリを卒業したあとすぐに開講されるというから、これは行くしかないと(笑)。

 

−−そのモチベーションは、どこから生まれるのでしょう?

楽しくて、出会ったものに飛びついて行ったら、どんどん道筋が示されて来ちゃった、という感覚です。自分の行動力がすごいとかじゃなく、なんか乗せられている感じ。

 

−−会社で新規事業の企画をしていたから、あるいは転職をしたいから学んだ、というわけではなかったのですね。

 そうですね。デジハリでドローン操縦の基礎的なことを学んでいた頃は、ドローンはビジネス的に可能性があると感じつつも、新規事業企画という自身の業務と紐づけて考えてはいませんでした。ドローンを学ぶ、ワクワク感の方が強かった。

その後、エンジニア塾に通うようになって、ドローンのプログラミングを使った新規サービスを考え始めました。最初は、転職なんて考えていなくて、「これでうちの会社も、売上が上がるぞ。俺が上げてやるぜ」と夢があった(笑)。

 

−−めっちゃ、いい社員だと思います。

新卒で入社して20年以上お世話になっている会社でした。同僚もいるし、その会社が嫌で辞めるとかじゃなくて、長く勤めている会社が新しいことをやって儲かるのが、一番ハッピーなことです。最初はそれを目指していましたね。

 

人生初の転職に向けて始動

−−転職を検討し始めた背景をお聞かせください。

会社に提案した新規事業が、最終的には通らなかった。これは転職を意識する、大きなきっかけになりました。2017年12月くらい、ちょうどエンジニア塾を卒業する頃です。

 

−−ドローンのプログラミングを活用した新規事業企画が通らなかった。

 はい。当時は今よりもっと、ドローンは信頼されていませんでした。落ちたら、怪我したら、どうするのかと。「可能性はあるかもしれないけれど、まだ危ない」というのが、一般的な見方だったように思います。

しかし、企画が通らないから転職を考えたということではありません。ドローンの世界は新陳代謝が早いので、スピードの速さについて行くためにどうすべきかを考えました。

 

−−ドローンの世界は、スピードが速い。

当時すでに、デジハリやエンジニア塾などを通じて、ドローン業界の知り合いが増えていました。業界のさまざまな話を聞くうち、そのスピード感やドローン業界を牽引する方々のバイタリティを目の当たりにするわけです。

一方で日本の企業は、何かを決めるのに半年、1年と、時間がかかるのが一般的。このサイクルに身を置いていては、たとえ1つ企画が通ったとしても、ドローンの世界のスピードにはついていけないかもしれない。そういうことは考えていました。

 

−−転職に対して、ご家族の反応は?

20数年、家族のためにということではなく、システム開発は自分の好きなことでもあるので、そんなに嫌なこともなく仕事はしていました。だけど、ドローンが面白くなって、家でもそっちの話ばかりするようになって、相対的に現業が色褪せているのは明らか。そうなると家族も「じゃあ、やれば」って(笑)。

上場企業からドローンのスタートアップに「転職してもいいかも」と妻が許容できたのは、子供が2人とも大学に入ったことも大きいですね。子育てがひと段落して妻も再び、正社員として働き始めていましたし、介護などの事情もなかった。タイミングに恵まれていたと思います。

 

−−ご自身としては、転職をどう考えましたか?

私も区切りとして、「これからは自分のことに集中、優先してもいいのかな」と感じていました。というのも、子どもが小中高のうちは、毎週土日になると子どもの部活などイベントがあったのですが、急にそうした役割がなくなって、時間を持て余しつつありました。

それに、ドローンやってる人って、輝いてるじゃないですか(笑)。ドローン業界を牽引する方々と接するうち、転職をしようと決めた一番の理由はこれですが、「人生は一度きり、時間を大切にしたい」と思うようになりました。

−−人生初めての転職、大成功ですね。

 何をもって成功というかは人それぞれだと思いますが、一緒にやりたい人とやりたいことをやれて、仕事量に関わらず忙しさを感じなくなって、毎日イキイキしていられることが成功だとすれば、転職して成功です。本当に。

 

−−ドローンとの出会い、学び、転職を検討するようになった背景など、示唆に富む体験談をお聞かせくださり、ありがとうございました。後編では、転職に向けた具体的な行動や考え方について、お話を伺いたいと思います。

ありがとうございました。

 

我田友史氏プロフィール

新卒入社した大手コンピュータ販売会社に約20年勤務し、システムエンジニアとして活躍。基本情報処理技術者、ソフトウェア開発技術者、情報セキュリティスペシャリスト、情報処理安全確保支援士、ビジネス実務法務3級、貿易実務検定B級・C級など保有資格多数。2017年、デジタルハリウッド ロボティクスアカデミー ドローン専攻卒業、JUIDA無人航空機操縦技能者、JUIDA無人航空機安全運航管理者、第四級アマチュア無線技士、第三級陸上特殊無線技士取得。ドローン・ジャパン主催 ドローンソフトウェアエンジニア養成塾を卒業後、同塾にて講師も勤める。2019年4月、株式会社アイ・ロボティクス入社。事業推進マネージャーに就任し現在に至る。

 

編集後記

我田さんのお話を伺っていて、真っ先に感じたのは「計画された偶発性理論」を体現されているということでした。「計画された偶発性理論」とは、予期せぬ偶然の出来事にベストを尽くして対応する、その積み重ねでよりよいキャリアが形成されるという考え方です。変化のスピードが非常に速いいま、自身の希望に沿ったキャリアを実現するためには、偶然を装って訪れたチャンスを敏感に捉えて、自ら楽しむことなのだと感じました。